伊文字(いもじ)
妻を持たぬ主人は家来を伴って、清水の観世音へ妻乞いの祈願に訪れます。観世音のお告げを夢見に得た主人が早速その出逢いとなる場所へ向かうと、一人の女性が佇んでいて、家来が住いを問うと女性は返歌で応じ消えてしまいます。この歌に頼って居所を探そうにも肝心な詞章が思い出せず、已む無く道行く人を無理やり止めて尋ねる事に・・・。
狂言約250曲(和泉流)の中には《妻定め物》と分類される演目群があります。妻乞いをきっかけに展開する演目「因幡堂」「釣針」「二九十八」「吹取」などがあり、これ等は望み通りの伴侶に出逢えない《醜女》を扱った作品が多い中、本曲「伊文字」は眼目が別にある事もあって女性の顔を拝み見る事はできません。
古書文献≪寛正五年(1464年)糺河原勧進猿楽≫において上演記録のある演目でもあり、狂言の成立初期にはすでに存在していた演目であろう事が伺えます。
また本曲には通行人が女性役を兼ねる、狂言に於いては珍しい〔一人二役〕の演出が伝承される流派もあります。
さて、主眼のヒントは『い』から始まる國・里の地名。両者はこれを頼りに見事女性の故郷を突き当てる事ができるでしょうか。