蚊相撲(かずもう)
召使いを一人しか持たない大名。新たな家臣を召し抱えよう思い立ち、唯一家来の太郎冠者を遣いに出します。太郎冠者は海道(街道)で道行く男に声を掛け、連れて帰り大名と面会させます。家来の嗜みとして、この男は相撲が得意と伝えると大名は大喜び。早速家臣に相応しい者であるか、その腕前を確かめようと試みますが・・・。
男(実は蚊ノ精)は「近江の國守山の者」と名乗ります。滋賀県守山界隈は、かつて良質な麻の産地として知られ、大和(奈良)・越前(福井)と並ぶ《蚊帳》の一大生産地であったと伝えられています。蚊ノ精にとっては、出身地が皮肉とも取れる可笑しみを伏線として持ち合わせています。
この蚊ノ精に使用される面は、口先の尖った〔空吹面(うそふきめん)〕と云い、火男(ひょっとこ)にも似た顔立ちをしています。空吹は口笛を吹く姿を模し「嘯く」という言葉の語源にも繋がります。
また大名と新参者が相撲を取るという演目は、ほかにも「鼻取相撲」「文相撲」など類曲がある中、この「蚊相撲」はその代表曲とも云えるでしょう。さらに流儀・流派によって、相撲の勝敗や取組方法(戦術)にそれぞれ異なる演出が伝承されているのも本曲の特徴と云えます。