末廣かり(すえひろがり)
目出度い正月の折柄、果報者(主人)は親類たちを招待して料理を振舞い、また土産には《末廣がり》を進呈しようと考え、太郎冠者(召使い)を呼び出し都へ出掛けて買い求めてくるように命じます。この末廣がりの正体を知らない太郎冠者は、都で運悪く素っ破(すっぱ=詐欺師)と出遭い言葉巧みに騙されて、要らぬ物を末廣がりと信じて持ち帰る事に・・・。
《末広》とは、慶事に用いられる扇子を指し、その名は扇を開く事によって形作られる云わば「八」の字のように放射上に広がった形状が、未来へ向け次第に道が開けていくような印象を持たせ末長く幸福が続くようにという願いを込め、即ち「繁栄」を表す縁起物として古来から祝祭事の記念品として重宝されてきました。しかしながら本曲のように、大事な晴れの日に気品ある扇子を進呈しようと考えた主人の思いも空しく、召使い同様現代では馴染みも薄くなかなか通じづらい言葉となりました。
類曲に「目近」「張蛸」もあり、これらの演目は正月をはじめとした目出度い雰囲気の中で上演される事が多くあります。