蟹山伏(かにやまぶし)
修験道の聖地、大峯・葛城山(奈良県界隈)での修行を終えた山伏が従者の強力(ごうりき)を伴って、故郷出羽ノ国羽黒山(山形県)への帰路に着きます。道中、山道を進むと俄かに空模様怪しく地鳴り轟き響く中、突然眼前に得体の知れぬ化物(蟹ノ精)が姿を現して進路を塞ぎ阻みます・・・。
私ども和泉流山脇派の詞章では「山深い所」として、蟹ノ精と遭遇した場所を具体的に特定していませんが、流儀によっては「江州蟹ケ沢」(鈴鹿峠土山宿辺り)などの地名が示されます。滋賀県をはじめ福島県や山形県などの各地に今もこの「蟹ケ沢」の名が残り、かつては険しい山地の峠や谷あいで人淋しげな恐怖心を煽る地帯であった事が伺える代名詞と見受けられます。
蟹ノ精には「賢徳(けんとく)」という面を起用し、馬や牛といった動物や動植物の精霊など人間以外の役柄に幅広く用いられます。上目づかいの滑稽かつ異形にも見える面を使用して、山伏たちを待ち受け威嚇します。
山伏が登場する演目は、その多くが大峯・葛城山から羽黒山へと向かう帰路道中に、何事か騒動に発展するという展開で、ほかに「柿山伏」「禰宜山伏」などがあります。