附 子(ぶ す)

登場人物
主人・召使い二人
上演時間
約25分

主人は外出するにあたり、二人の召使いに《附子》を託して「これは吹く風に触れるだけでも滅却(=死)に値するほどの猛毒なので、用心しながら決して中を見るな!」と留守番を命じて出掛けます。残された召使いは怖々と見張りながらも、段々と中身が気になって・・・。

本来は『毒』と書いて「ぶす」とも読み、自然界に存在する野草などのうち
毒性の強いものを指して、代表的なものには《トリカブト》があります。
狂言に於いては「附子」(流派によっては「不須」)の表記が、また人物設定
では『主人と家来』として伝承されておりますが、最古の狂言集と云われる「天正狂言本」(16世紀/安土桃山時代)には同じ主従関係でも『和尚と小坊主』という設定で描かれています。さらに遡れば「沙石集」(13世紀/鎌倉時代)にも類似のエピソードがすでに存在し、この説話集は名古屋市東区に現存する長母寺の住職による編纂と伝えられています。あの一休さんの頓智噺(和尚の留守中に水飴を見つけた一休が、全て食べてしまったのちに言い訳を考える)を思い出される方もあるでしょう。

「やれ!」と云われればやりたくない、「やるな!」と云われればやりたくなる。誰しにも起こり得る相反する葛藤がよく表されている事から、元々は《欲》や《嘘》を戒める僧侶の教訓として用いられてきたのではと推察します。
かつては小学6年〔光村図書刊〕の国語教科書に、現在は小学5年〔教育出版刊〕に採用され生徒児童向けの上演機会も多く、『狂言と云えば附子』と知られるほどの代表作です。