磁 石(じしゃく)
遠江國見附の国府(こう)〔静岡県磐田市界隈〕の者と名乗る男が、京の都へ奉公の旅に出ます。道中、熱田の森や琵琶湖を経由して近江大津の松本へ差し掛かると、賑やかに市が開かれています。商店を見物して歩いているところへ、都の素っ破(詐欺師)が近付いて言葉巧みに騙して宿を紹介し、人商人(ひとあきんど)〔=人買い〕に売り付けようと企てますが・・・。
題名「磁石」とは程遠い序章部から、次第にその真相が明らかとなって結び付いてゆきます。人買いとは人身売買を請け負う仲介人。そんな恐々とした時代背景が垣間見られる作品で、田舎者と都人の駆引き・対峙が見どころです。