内沙汰(うちさた)
伊勢講の成就に伴い、伊勢参拝に夫婦連れで出掛けると妻に告げた右近(おこ)ですが、妻は講中仲間の左近(さこ)の手前、乗り物がなければ嫌だと聞き入れません。そこで右近は牛に乗って行こうと提案し、以前左近の所有する牛が田の作物を荒らした事から、弁償の証にその牛は我が物だと主張して、この事を地頭殿(土地や農民などを管理していた当時の役職)に訴えるとの事。しかし右近は口下手で気の弱い性格。地頭の前でもしっかりと主張が果たせるよう、妻は自分を地頭に見立ててまず稽古してみてはと促します・・・。
「内沙汰」とは、正規の訴訟を起こさずに事案を内々で処理し取り計らう事で、対義語は「表沙汰」。本曲では当時の訴訟の様子も再現されます。
また「伊勢講」とは、伊勢神宮への参拝を目的とした集団で、旅費を積み立て籤で代表を選出し交代で参拝していたようで、信仰の深さから集落全体の戸主が参加する形態が多く、それは同時に近所同士の接し方にも繋がります。抜け目のない近所の亭主と臆病な我が夫との対比、潜在する夫婦の関係が垣間見られる作品です。
大蔵流では「右近左近(おこさこ)」の題名で演じられています。