舟渡聟(ふなわたしむこ)

登場人物
聟・船頭・船頭の妻
上演時間
約35分

聟入り儀礼のため舅宅へ向かう男〔聟〕は、道中渡し船に乗ります。船中で男が手に持つ酒樽に目を付けた大髭の船頭は、その酒が呑みたい一心で一杯振る舞うよう所望しますが、断られると腹癒せに漕ぐのを止めてしまったり、また横柄に漕ぎ急いだりとあの手この手で酒を強請(ねだ)ります。肝を冷やし仕方なく呑ませた男でしたが、なんとか向こう岸へ渡り、残り少なとなった酒樽を持って舅宅へ到着します。応対に出た姑に土産を差し出して舅の帰宅を待っていると・・・。

 

狂言に於いて《聟入り》とは婿養子になる事ではなく、新婚最初の挨拶儀礼として相手宅へ伺う事として用いられます。当時の世相や慣習の一端が垣間見られる作品で、狂言にも「鶏聟」「懐中聟」など聟入りにまつわる類曲が存在します。儀礼中に不作法・失態する様を描く他曲とは違い、本曲は船頭の棹捌きに合わせて舟が流されたり激しく揺られたりと、乗客たる男との両者息の合った演技が見どころです。

また大蔵流など流儀・流派によっては、船中で聟と船頭が酒盛りになったり船頭と舅は別人という設定が伝承されるなど、ストーリー展開が異なる事も本曲の特徴と云えるでしょう。

表記上の区別として『舟』は小舟を指し、『船』は大型船を指します。