雁大名(がんだいみょう)
都での訴訟事が叶い目出度く帰郷の運びとなった田舎大名は、在京中世話になった人へ振舞う馳走を買い付けて来るよう、召使(太郎冠者)に命じます。出掛けた召使は雁屋で初雁(はつがん)を見つけるも代金は持ち合わせず、また掛売での求めにも応じてもらえず・・・。
《初雁》とは、大陸から東北地方などに越冬のため飛来する雁の群れを指し、その名はかつて上野-青森間・盛岡-函館間を駆け抜けた特急「はつかり」の由来にもなっています。また秋を代表する季語として取り上げられるなど、中世では季節を感じる高級食材として珍重され、持て成しの格好の素材でした。当時は鳥類も魚屋で商いされていた史実から、「肴屋町」という地名が狂言に登場します。
「雁盗人」の題名で上演されていた時代もあり、大蔵流では近世廃曲となっているそうです。雁の表現にも大蔵流は洞烏帽子、和泉流は羽箒(または大きな羽根)を用いて演じています。