鍋八撥(なべやつばち)
所の目代(代官)は新たに市を開設するにあたって高札を掲げ、最初に到着した者に諸税免税の特権を与えると周知します。この触書きを知った羯鼓売りと早鍋売りが先着を巡って口論となり、これを見咎めた目代が仲裁に入ります。互いに自分の商売物こそ市の代表に相応しいと故事まで引き合いに両者は主張するので、目代は何か勝負をして決着するよう提案します・・・。
現代では一見ピンとこない商売物を取り上げていますが、早鍋とは焙烙とも云われる薄手素焼きの土鍋を指し、市の重要性や賑わいを物語る上で中世庶民の日常や生活感が垣間見えます。
何事にも的確で機敏な対応を見せる羯鼓売りとは対照的にどこか鈍い早鍋売り、両者の対比が見どころで、商売人の対立や自慢話として類曲に「酢薑」「膏薬煉」「牛馬」があります。