枕物狂(まくらものぐるい)
百歳を超える長寿の祖父は、最近恋に悩んで夢うつつな日々を送っているとの事です。この噂を聞きつけた二人の孫が、祖父のもとを訪ねて詳しく話を聞き出します。これが事実ならば是非とも成就させてあげたいと考え、その相手を突き止めて・・・。
本曲は狂言「比丘貞(びくさだ)」「庵の梅(いおりのうめ)」とともに《三老曲》と呼ばれ、能楽修業に於ける根幹骨子〈謡・舞・語り〉の表現技法を、それまでの豊富な舞台経験を土台・布石にして、歳を経て初めて演じる事が許される芸の集大成とした、即ち老齢にして更なる〈心・技・体〉の精神を問うすべてが注ぎ込まれた、狂言の最高秘曲に位置付けられています。
謡の一部には能「松風」〔若い海女姉妹の悲恋物語〕からの引用もあるなど、卓越した技能と品位高き技芸、それを支える助演者一同を以て、これら老人の憂いを能楽ならではの様式美を用いながら、かつ微笑ましくも演出しています。
祖父は俵型の小さな枕が結びつけられた笹の小枝を手にして登場します。枕は《恋慕》を、笹は《物狂い》を象徴していて、乱れた心と高揚した精神状態を視覚的に見せています。この笹を〔狂い笹〕と呼び、能の「百万」「隅田川」や「班女」、狂言でも「法師ヶ母」などで使用される、狂乱や失意を示した小道具です。
